こどものガタガタ歯並びの治療法は?小児矯正症例解説。case1|のぶ歯科・歯ならび歯科|神戸市板宿駅の歯医者

医療コラム COLUMN

<この記事を監修した人>

歯科医師 丸橋伸行
のぶ歯科・歯ならび歯科の院長

2006年の開院以来、「歯がボロボロな方」を16,000人以上(2006年4月〜2024年12月実績)診療してきた豊富な経験と実績を持つ。 日本障害者歯科学会、日本臨床歯科CADCAM学会、日本デジタル矯正歯科学会、IDIA(国際口腔インプラント学会)に所属。 正確な診査・診断を徹底し、見た目の美しさだけでなく機能性や将来を見据えた、患者様に本当に適した治療を追求。矯正にも精通しており、幅広い専門知識と長年の経験に基づいた信頼性の高い情報を分かりやすく発信します。

こどものガタガタ歯並びの治療法は?小児矯正症例解説。case1

該当症例はこちらから

case1は上顎を広げる治療を行ってから、歯を並べました。

上顎の横幅を広げる治療を上顎側方拡大、前後に広げる治療を上顎前方牽引と呼びます。


上顎を横や前後に広げるイメージ写真


case1ではどちらも行いましたが、ここでは上顎側方拡大について解説します。

歯並びが悪い理由

歯並びが悪い理由は歯のサイズと顎のサイズの不一致です。

例えば歯のサイズが100cmで顎のサイズが100cmだったら、歯はキレイに並びます。

歯科矯正歯の正しいサイズ図

 

しかし、歯のサイズが100cmで顎のサイズが90cmだったら、歯が生えるスペースが10cm足りず、歯が並びきらないので、ガタガタの歯並びや出っ歯になります。

ガタガタな歯の図


逆に、歯のサイズが90cmで顎のサイズが100cmだったらスペースが10cm余るのですきっ歯になります。

 

 
並ぶ ガタガタ 出っ歯  
すきっ歯 並ぶ  
    並ぶ

縦:歯のサイズ 横:顎のサイズ

ガタガタの治し方

case1は歯のサイズが顎のサイズよりも大きいケースでした。そこで、まずは歯が並ぶためのスペースを作ります。スペースを確保できたらそのスペースに歯を移動すればガタガタ、出っ歯が治ります。

スペースを作る方法は

・歯を削る

・歯を抜く

・顎を広げる

の3つです。

 

子供の顎の骨は大人と違ってまだ完全に成長しきってないため、骨そのものを広げやすい状態にあります。「歯を削る・抜く」は、乳歯から永久歯への生え変わりが完了して、かつ顎の骨の成長がほぼ終了した中学生以降で行います。そのため、『歯を削る』『歯を抜く』をいきなり選択することはせず『顎を広げる』で対応します。

 

歯を削る

歯と歯の間を0.5mmほど削ってスペースを作ります。仮に6箇所削ったら3mmのスペースを作れます。

歯を抜く

抜く歯にもよりますが、7mmほどのスペースを作れます。左右1本ずつ抜くと14mmのスペースを作れます。

顎を広げる

当院での上顎側方拡大の拡大量は、左右の奥歯部分で5〜6mm、犬歯部分で3mm程度までに設定しています。それ以上広げることも可能ですが、やり過ぎると顔が平べったくなるので程々にとどめています。


では上顎側方拡大の解説です。

 

上顎側方拡大の解説

  1. 上顎側方拡大装置とは
  2. 痛み
  3. 開始時期
  4. 期間
  5. 取り外し
  6. 費用
  7. その他の効果

上顎側方拡大装置とは

上顎を横方向に広げて歯が並ぶスペースを作る装置です。

顎のサイズが歯のサイズよりも小さな人に使います。

上顎を横に拡大する装置写真


中央のネジ穴に爪楊枝のような棒を差し込んで、奥へ押すように回転すると、装置全体が横へ広がり、顎を側方へ拡大する力がかかります。


自分で回すのが困難なら家族に回してもらいます。

ご家族の方が回すのも難しければ、歯科医院で回すのももちろん可能です。

 

痛み

2022年11月~2025年11月時点で当院では痛くて外したケースは1ケースのみで、他ケースで痛みを言われたことはありません。

 

子供の骨は柔らかく、さらに真ん中で分かれているので、横に広げても抵抗がなく痛みを感じにくいのです。

小児矯正顎のサイズ図


痛くて外したケースは7歳児でした。

当時は原因がわからなかったのですが、現在は顎骨の成熟度が同年齢よりも低かったと考えています。

というのは、その子は1年後に再度拡大しましたが、その時は全く痛みはなかったからです。

1年待ったことで顎骨が成熟したのでしょう。

開始時期

上顎の成長は8〜10歳にピークを迎えます。

よって、当院では開始時期を小学1年生に設定しています。

 

もっと早く開始する先生もいますが、言いつけを守ってもらうには小学生程度の社会性が身についている方が良いと考えています。

 

また、ピークを超えても上顎側方拡大は可能です。

その場合は、お口の状態と年齢を鑑みて総合的に判断します。

 

期間

1回回すごとに横方向に約0,2mm広がります。

これを週2、3回のペースで目的の拡大量まで続けます。

仮に週2回のペースで5mm拡大するなら約3ヶ月使います。

 

取り外し

上顎拡大装置には固定性(患者さん自身で取り外しできないタイプ)と可撤性(「かてつせい」患者さん自身で取り外しできるタイプ)があります。

固定性はセメントで歯に固定します。

可撤性はワイヤーで歯に引っ掛けます。

固定性の上顎拡大装置写真取り外し式上顎拡大装置写真


それぞれの特徴は表の通りです。

 

 

固定性

可撤性

取り外し

できない

できる

掃除

しにくい

しやすい

ねじ回し

口の中

口の外

 

取り外しができて、掃除しやすく、口の外でねじ回しができる可撤性が患者さんは扱いやすいですが、当院ではあえて可撤性は使わず固定性のみ使っています。

理由は可撤性の3つのデメリットを避けるためです。

 

可撤性のデメリット3つ

1.所定位置に戻らない

2.装着時間が短い

3.顎が広がらず歯が傾斜する

1.所定位置に戻らない

ねじ回しすると装置は左右に広がるので、今の口のサイズよりも横幅がやや大きくなります。

患者さんは大きくなった装置を自分で所定位置に戻す必要がありますが、所定位置に戻せずに浮いていることがあります。

現状の口のサイズよりも大きなものを入れるから当然と言えば当然ですね。

所定位置に戻ってない状態でネジを回すと予定外の拡大が起こり、治療が予定通りに進まない可能性があります。

当院ではその可能性を考慮して、可撤性を使用せず固定性を使用しています。

2.装着時間が短い

自己判断で数時間だけ装着する患者さんがいます。

「10時間も装着したから大丈夫だろう」と言う患者さんもいますが、固定性は24時間装着して効果を出すことと比べると短すぎます。

私たちは患者さんの言葉を信じるしかなく、治療が進まない原因をアレコレ考えて余計な治療をしてしまうこともあります。

当院では不確定要素を減らしたいので、可撤性を使用せず固定性を使用しています。

3.顎が広がらず歯が傾斜する

下図は固定性と可撤性の顎の広がり方の違いと歯の傾きを比較したものです。

子どもの矯正上顎拡大図


固定性は顎の中央が広がっているので、顎のサイズ自体が左右に大きくなっていることがわかります。

一方、可撤性は顎の中央は変わりません。

 

また、固定性は歯の軸は変わりませんが、可撤性は歯が外側に傾斜していることが確認できます。

 

このことから固定性は顎をしっかり広げることができ、可撤性は顎が広がっているように見えるけど、実は歯が傾斜しているだけであることがわかります。

この結果は歯科医師にとってはヒヤッとするものです。

 

患者さんにとっては可撤性の方が気軽なのでウケが良いのはわかりますが、目に見えないデメリットもあります。

そのため、当院ではあえて固定性を使用しています。

 

では、可撤性が全く使えないのかと言うとそうではなく、一定の条件を満たせば使えると思います。

その条件は、

・非常に厳しい先生であること

・先生の指示通りに装置の装着ができる患者さんであること

です。

この2つの組み合わせなら可撤性でも結果が出ると思います。

 

費用

googleのAI検索によると、固定性は5万円前後、可撤性は20万円~30万円と表示されました。

当院では上顎側方拡大装着の費用を別途いただくことはせず、Ⅰ期治療費の範囲内で行います。当院のI期治療費は税込44万円です。

その他の効果

顎の大きさと歯並びを整えると顔つきが変わります。

case1では、術前の横顔がしゃくれてましたが、術後はしゃくれがなくなっています。

タイミングが合えば様々な好影響が期待できます。

矯正前後の横顔比較写真


小児矯正ページはこちら

この記事に使われている歯科用語 

用語

ふりがな

意味(シンプル解説)

上顎側方拡大

じょうがくそくほうかくだい

上にあごの横幅を広げて、歯が並ぶスペースを作る治療のことです。

上顎前方牽引

じょうがくぜんぽうけんいん

成長を利用して、上あごを前に引っ張り出す治療のことです。受け口などの改善に使われます。

固定性

こていせい

自分では外せないタイプ。24時間矯正の力がはたらきます。

可撤性

かてつせい

自分で取り外すことができるタイプ。お掃除はしやすいですが、外している間は矯正の力ははたらきません。

I期治療

いっきちりょう

子どもの成長期に行う、土台作りのための治療です。



FAQ

Q1. 装置を広げる「ネジ回し」は家でやるのですか?

A.はい、基本的にはご自宅で行っていただきます 。装置中央のネジ穴に棒を差し込み、奥へ回転させることで装置が横に広がります 。もしご家族での調整が難しい場合は、歯科医院で回すことも可能ですのでご相談ください 。
Q2. 装置を広げる時、痛みはありますか?

A.子どもの骨はまだ柔らかく、上あごの骨が真ん中で分かれているため、広げる際の抵抗が少なく痛みを感じにくいのが特徴です 。当院でも「痛くて装置を外した」というケースは非常に稀です 。
Q3. なぜ「取り外しができるタイプ」ではなく「固定性」なのですか?

A.確実に「あごの骨」を広げるためです 。 取り外し式(可撤性)は便利ですが、「装着時間が短くなりやすい」「歯が外側に倒れるだけで骨が広がらない」といったリスクがあります 。固定性なら24時間しっかり力が働くため、歯を傾けずに土台となる骨を広げることが可能です 。
Q4. 治療を始めるベストなタイミングはいつですか?

A.上あごの成長ピークが8〜10歳頃に来るため、当院では小学1年生(6〜7歳)からの開始をおすすめしています 。この時期は、装置の扱いなどの約束事を守れる「社会性」が身につき始める時期でもあるため、スムーズに治療を進められます 。
Q5. あごを広げると顔が大きくなりませんか?

A.適正な範囲(奥歯で5〜6mm程度)で広げるため、顔が極端に横に広がることはありません 。むしろ、あごのサイズが整うことでガタガタの歯並びが改善され、しゃくれていた横顔が整うなど、タイミングによってはお顔立ちに良い影響を与えることも期待できます 。